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しかも、相手は性急に先手を打ってくる。
「我は正々堂々と投げるのみ! 食らうが良い!」
約束を破棄した男が清廉潔癖な台詞を言って、子ども相手に青球を本気で投げつけた。
ギュオン! と、衰えのない球速。いや、頭に血が昇ってきてるのか、序盤よりも速くなってたかもわからん。
それが迫り、アルトは、
「ホッ、と」
今度こそ、ボールをキャッチしていた。まあ、脱いだ上着を使いボールを包み込む行為がドッジボールでキャッチと表現できればの話だが。
そろそろハルザックの顔も真っ赤だ。
「貴様ァ!?」
「だって、服使っちゃダメなんて聞いてないし」
『問題ありませーん。道具の使用についてはルール上で言及してませーん』
「うぬぬぬぬぬぬぅ!」
俺としてはもう、呆れてしまう。
「くす」と、シャム。「面白いんですの」
少年の行動の一つ一つを楽しみながら試合を観戦しているようだった。
俺は最初、両者の能力に明らかな差があると思っていたが。
そうでもないようだ。
総合力と言うかな。ズル賢さだったらアルトのが段違いで相手を上回ってるだろう。
――しかし。
いよいよもって、ハルザックは本気になったようである。
「ふ、ふふ」
それはもう、境地に達した怒りが自我の世界を一周して悟りに到ったかのような穏やかな表情だった。
「小僧……お前を他愛もない存在と軽んじていた愚考を謝ろう」
「いや、いい」と即答。
「これより我は、お前のいかなる手段も受け入れよう。その上で……我は、勝つッ」
グッと、姿勢を低くした。
まるで全身全霊を奮い立たせ、宿敵との決着に臨むかのような。
真にやる気となったハルザックに、アルトが返す声はとことん張り合いがない。
「おおげさじゃん? こんな遊びで」
またもやアイツが足で持ち上げたのは青球。
ハルザックの姿勢が、顕著に強張る。
奴は、待っているのだ。
先ほど、雪辱を与えられた、青色の捕球を。
「ま、付き合ってあげるか。僕も、今度は正々堂々と投げるよ」
絶対に嘘だな。根拠はないが確信している俺。
そうして、少年は二度、投球フォームに入ったのだ。
それは一度目よりも、少しキレのある動きだったが――
ブォン!
「あ、すっぽ抜けたー」
ほら見ろ。嘘だった。
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