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性懲りもなくアルトが投げたボールは、ハルザックにまったく向うことはない。
実のところ、少年のコントロールは相当なものらしい。一度目と同じく、敵陣地手前のギリギリ境界線に着弾しそうな軌道を辿る。このまま青球が落ちれば、ルールによりハルザックはまた1失点だ。
エリアからは出ていけないルールもある。ましてや常に自陣の真ん中に居座っているハルザックにとっては、限りなく捕球が不可能に近いコースだったはずだ。
だが、しかし。
「ハッハァ!」
――躍動。
姿勢を低くした大男が驚くほど敏捷な動作で、前方空間に滑り込んだのだ。
目を、見張る。
自らが捕球の達人と言ってのけた奴の言葉に、嘘偽りなどなかった。
大きな体を繊細に屈めて、自陣の果てまで一瞬で詰める。そして最悪に不親切な青球を、すくい取るその動作は、まるで生まれてきた我が子を抱き上げる母親の慈愛に満ちた姿を想起させるかの如く。
その姿はあまりにも、ダイナミックで、エレガントで。
青球が、地に着くことはない。
奴は青球をキャッチしてみせたのだ。
ドッジボールの達人の、美しいとしか言いようのない捕球に誰もが息を呑む。
ハルザックは誇らしげな顔を浮かべ、
「とったぁ! 我はとってみせたのムギュウ」
そしてボールが顔にめりこんでいた。
――赤色のボールが。
前のめりだった姿勢に直撃だ。あれは痛い。鼻が潰れたんじゃなかろうか。
「バーカ」
自分の陣地で、《ボールをシュートしたポーズ》であった少年が、呆れまくったような声を上げている。
「ふつー、相手に赤球残ってる時に、青球なんて放っとくでしょ。クロンよりも視野が狭いね」
アルトは青球を投げた直後に、続けざま自陣の地面を転がっていた赤球を蹴りつけたのであった。
手前に落ちる青球しか見ていなかったハルザックには、自分が何をされたのか理解できていないだろう。
首を仰け反らせて、痙攣している。
「ガッ、ハ……」
ハルザックの顔を傷めつけた赤いボールは、そのまま、高く跳ね上がり、リングのどっかに落ちていく。
間もなく、ゴーレムガールの元気いっぱいである判定が届いてきた。
『赤球ヒットォ! マイナス3ポイントで勝者、アルト選手!』
はて。
悪魔ってのは確か、狡猾な生き物だったような?
なら、あの少年こそ悪魔なのではなかろうか。
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