第五話

11/32
前へ
/293ページ
次へ
   つまり、ディナイを使った狙いは、俺が使う術と、それによって現れる効果の隠蔽なのだ。  俺は続けざま、  “在る景色を映せ” 「“Record&Project!”」  解放と同時に、セルゲイの本物の腕が俺へと迫っていた。 「このあたりかぁっ!?」  今のアイツにとって俺は黒いモヤに隠れて見えていないだろうに、なかなか良い勘を持っているらしく、ほぼ正確に俺の襟元へと手が伸びていた。  俺のプランとしては、ここで奴に捕まっても問題はないのだが、それでも簡単に捕まってやるつもりはない。  こっちへ伸びてきた豪腕を俺は右へ避ける。結果的に目標が見えてないからだろうね。セルゲイの攻撃は直線的で、回避するのはそうそう難しくはなかった。  しかーしっ。 「ふんぬらぁ!」  俺に対する捕獲用アームが空を切った瞬間、暗黒結界に腕だけを突っ込んでいた野郎は乱暴にそれを振り回したのである。 「クソいてぇ!?」  不運にも顔面へと飛んできたセルゲイのぶっとい二の腕を、俺は避けきれずに手でガードしたわけだけど。うぎゃあ、これは痛い。骨にヒビが入ったんじゃなかろうか。  不幸中の幸いだったのは、この時すでに俺は逃げるつもりもなかったので風乗りを解除していたこと。そうでなければ2、30メーターは優にぶっ飛んでリングアウトしてたことだろう。  そして俺の悲鳴も奴に届くことはなかったが、 「おお? 今なんか触ったぞぉ」  手応えを感じ取ったようで、腕がジンジンで涙を滲ませている俺の方へとさらに、今度は両腕で追跡してきた。 「変な魔術で隠れたって無駄だぞぉ」  こんにゃろ。  腕が痛くてイライラする。瞬くまで、焼いてやろうかと沸々したが、チーム天誅に迷惑がかかるので自制する。ほら、俺ってば大人だから。アルトになんと言われようともな。私情に流されず我慢するのさ。  けども、勝利とは関係のない、多少の仕返しをしてもバチは当たらんだろ。  俺は結界の中でしゃがみ、無神経な手探りで飛んでくるセルゲイ選手の腕をやり過ごすと、いきなり設置した魔術を解除する。  “解除、そして” 「Canceled,Deny..and!」  あっさりと、俺を包んでいた闇色のフィールドは消え去る。  一帯を隠していた黒色がなくなり、復活したであろう視界の中、しかしセルゲイは忙しない状況の変化に目を丸くしている。
/293ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20668人が本棚に入れています
本棚に追加