第一章

8/16
前へ
/24ページ
次へ
街の灯が遥か後方に見える。 それ以外は荒野が広がるばかり。 僅かに繁った木の下で、イーギスは夜を明かす事にした。 火を炊く事は出来ない。 追われる身である以上、いつ誰が襲ってくるかも分からない。 そんな状況下で火を炊けば、何もない荒野だ。 すぐに居場所がバレてしまう事は必至。 騎士としての訓練を積んだおかげで、イーギスは夜目も利く。 幸いにも今夜は、月もあり星も見える。 更に、獣の気配にも敏感だ。 明日以降は、昼間に寝て夜になってから移動すればいい。 だが体力は温存しておかなければならない。 春が近いというのに、流石に夜は冷える。 薄い毛布を二枚重ねて、身体に巻き付けたとしても、寒さをしのげるものではない。 〔危険を犯してでも、今夜は宿に泊まればよかったかもしれませんね〕 そう思ってみたところで、もう真夜中に近い。 街にある門は、すでに閉じられてしまっている。 それに、裏路地に横たわる死体が発見されていたとなると、街はかなりの騒ぎになっているはずだ。 そんな場所に戻るのも、得策だとはいえない。 木の幹に身体を預けて、イーギスは静かに息を吐き出した。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加