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王自らの手によって、扉はすぐに開けられた。
室内に足を踏み入れたイーギスは、腰に下げた剣を鞘のまま床に置き、その傍らに膝をつく。
「帯剣を許可した覚えはないが?」
床に置かれた剣に目を向け、熱を持たない王の声に、イーギスの背中に冷や汗が伝う。
城内に剣を持ち込まない。
それは、暗殺を恐れた王が即位すると同時に、法として定めたのだ。
いくら緊急事態とはいえ、イーギスは王命に背いた事になる。
「無礼は承知しております。ですが、緊急事態なので御了承下さい」
片膝をついたまま、深々と頭を下げれば、王の張り詰めた雰囲気がふっと緩む。
「帯剣の法を犯してまでの、緊急事態とは何だ?」
先を促され、使者から聞いた情報を正確に王の耳に入れる。
「今から出陣の準備をして、どれだけ馬を走らせても三日の行程。それでは間に合わない」
確かに、どれだけ急いでも間に合わない。
それでもただ手をこまねいていたくはない。
主要都市ツバイは、イーギスの故郷。
その街には、家族や友人達が今も生活をしている。
「王、出陣の御命令を」
その人達の身を案じれば、いてもたってもいられず、イーギスは王に懇願する。
「無用だ。ツバイは諦める」
そんなイーギスに、王は無情とも言える言葉を発した。
それが王の下した決断。
それを覆す事は誰にも出来ない。
「……承知いたしました……」
絶望に支配されながら、苦渋の思いでそう答えるしかなかった。
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