第一章

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王自らの手によって、扉はすぐに開けられた。 室内に足を踏み入れたイーギスは、腰に下げた剣を鞘のまま床に置き、その傍らに膝をつく。 「帯剣を許可した覚えはないが?」 床に置かれた剣に目を向け、熱を持たない王の声に、イーギスの背中に冷や汗が伝う。 城内に剣を持ち込まない。 それは、暗殺を恐れた王が即位すると同時に、法として定めたのだ。 いくら緊急事態とはいえ、イーギスは王命に背いた事になる。 「無礼は承知しております。ですが、緊急事態なので御了承下さい」 片膝をついたまま、深々と頭を下げれば、王の張り詰めた雰囲気がふっと緩む。 「帯剣の法を犯してまでの、緊急事態とは何だ?」 先を促され、使者から聞いた情報を正確に王の耳に入れる。 「今から出陣の準備をして、どれだけ馬を走らせても三日の行程。それでは間に合わない」 確かに、どれだけ急いでも間に合わない。 それでもただ手をこまねいていたくはない。 主要都市ツバイは、イーギスの故郷。 その街には、家族や友人達が今も生活をしている。 「王、出陣の御命令を」 その人達の身を案じれば、いてもたってもいられず、イーギスは王に懇願する。 「無用だ。ツバイは諦める」 そんなイーギスに、王は無情とも言える言葉を発した。 それが王の下した決断。 それを覆す事は誰にも出来ない。 「……承知いたしました……」 絶望に支配されながら、苦渋の思いでそう答えるしかなかった。
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