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「また、カザフィルとアスドニアが戦争を始めるらしいな」
「みたいだな。どっちの国も兵士を集めてるって噂だぜ」
「お前はどうするんだ?」
「そう言うお前こそ」
此処はアスドニアとカザフィルの国境に位置する、商業都市キルス。
そんな場所にあるせいか、辺境にも関わらず人の出入りが激しい。
「どうするも何も、俺達はアスドニアの国民だからな。答えは決まっているだろ」
昼間だというのに、男達の居る酒場は、かなりの人で混雑している。
「だよな。この国の王様がカザフィル相手に負け戦(いくさ)なんかするはずないもんな」
「そうそう。三年前の戦だって、ちゃんと準備してカザフィルの主要都市であるツバイの町を壊滅させたんだ。あのまま攻めていればあの国一つ潰せたのによ」
辺りを憚(はばか)らず、大きな声で二人は話を続ける。
その言葉に顔を歪めている者の存在にも気付く事はない。
〔不愉快だな〕
少し離れた席で、男二人の会話を聞いていた青年が一人、美しい眉をひそめていた。
旅人なのだろうか?
薄汚れた格好をしてはいるが、背中の半ばまである髪は漆黒。
日に焼けることのない肌は、白磁を思わせる。
けれど海を映したような蒼い瞳には、深い絶望と悲しみを湛えていた。
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