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だが、そんな青年に気付く者は一人もいない。
商業都市故か、この青年のような旅人は毎日、何千人も此処を訪れる。
事実、広い店内を見回せば同じような格好をした者ばかりだ。
中にはあの男達と同じように、普段着のまま訪れる街の人達もいる。
「そうなると、王都まで行かなきゃな」
「ここからだと最低でも七日はかかるぞ。きちんと旅の支度もしなければならんし」
「そうだな。シェイダ山脈には盗賊が出ると聞くしな」
シェイダ山脈は、アスドニアの王都を護るように聳(そび)える山のこと。
王都サイラフは、三方を山に囲まれ、後ろにはカラド海を背にしている。
そのせいか、王都は難攻不落とされて、今までに一度も戦火に晒(さら)された事がない。
「明日の朝一番に出発するとしよう」
「そうだな、それまでに準備を整えておくとするか」
そう口にし、二人は勘定を払うと店を出て行った。
「戦などというもので、命を落とそうとするなど愚の骨頂。大人しくここに留まれば命を無駄にしなくてもすむと言うのに」
蔑(さげず)むようでいて、どこか哀れみを含む口調。
それは、二人が出て行った扉を見つめる青年が発したものだった。
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