第一章

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聞き取れるかどうかの小さな声。 そのおかげで、青年に注目する人はいなかった。 唯一人を除いて。 勘定を済ませた青年は、今夜の宿を探しに街を歩く。 その後ろをまるで影のように歩く人が一人。 その気配を察したのか、青年は人気のない裏路地へと向かい、足を速めた。 地理に不案内なせいか、青年の行く手を阻むように塀が聳え立つ。 〔どうやら、袋小路に追い詰められたみたいですね〕 冷静に現状を分析しながら、青年は腰に下げた剣の柄に手をかけた。 そして、ゆっくりと青年に近づく人影。 「私に何の用でしょうか?」 剣に手をかけたまま、先に口を開いたのは青年。 「裏切り者には死を。それがジェダ国王の言葉です」 そう言うなり、人影は剣を抜き青年に斬りかかる。 ギリギリのところで、剣を抜き青年はその攻撃を防いだ。 だが、激しい剣戟はここから始まる。 「流石はカザフィル大国一と唱(うた)われた、騎士だけのことはあるな」 次々に繰り出される青年の攻撃を、全て剣で払いかわす。 〔この男、何者?〕 旅人の格好をし、フードを目深に被っているせいか、男の顔は全く見えない。
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