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なおも剣戟は激しく続き、青年は次第に塀まで追い詰められていく。
〔ここまでですか…〕
青年と目の前で剣を構える男を見比べれば、体格の差は歴然としている。
狭い裏路地だ。
どうしても細身の青年の方が体力を消耗する率が高くなる。
此処が広場ならば、形勢は逆転していたであろうが…。
「くっ……」
頭上から振り降ろされた剣を、ギリギリで受け止めた青年の口から声が漏れる。
「騎士イーギスも、3年の間に腕が落ちたようだな」
フードに隠れていても、口元に浮かんだ残忍な笑みは、青年、イーギスにも見ることが出来た。
「私が国王の狗(いぬ)である、貴方に負けると本気で思っているのですか?」
渾身の力で男の剣を跳ね返したイーギスは、その反動で体勢を崩した男をめがけて剣を突き刺した。
肉を斬り骨を断つイヤな感触が、イーギスの手に伝わってくる。
慣れ親しんだ感触。
けれど今のイーギスにとっては、最も忌まわしく不愉快なモノ。
「残念でしたね。貴方のように、何の疑いも持たず言いなりになるような方に、私を殺す事は不可能なのですよ」
剣を鞘に戻しながら、イーギスは冷たく、そして何故か哀しそうに呟いた。
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