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「この街に、これ以上滞在するのは無理でしょうね。追っ手も迫っているようですし…」
誰に言うでもなく、一人呟いたイーギスは、死体に目をくれる事もなく表通りに出た。
〔サイラフに向かうしかないみたいですね〕
カザフィルには戻れない。
カザフィルの騎士の中で、最高位の証である深紅のマント。
それを、故郷であるツバイの街が滅ぼされた時に脱ぎ捨てた。
それはジェダ国王に対する裏切り行為。
追っ手を差し向けられるのは当然だ。
けれど、イーギスは戦う事、王の命令に従う事に疑問を感じずにはいられなかった。
カザフィルもアスドニアも十分な国土を持ち、資源や食料も自国で賄える。
王の欲のために、この二国の間には争いが絶えない。
イーギスがそれに気付いたのは、街を滅ぼされた時だった。
民の命を犠牲にしてまで、己の欲を貫き通そうとする王の遣り方。
果たしてそれが本当に正しいのか?
民の命を犠牲にしてまでの価値が、その代価で賄えるのか?
そんなはずがない。
民があってこその国。
民がいるからこそ国は繁栄するのだ。
それに気が付いた時、イーギスは騎士である自分を呪った。
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