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「辻斬りごときに監察を動かすのか」
先に口を開いたのは土方の方だった。
「なんだ、聞いてたのか」
「まァな。で、どうなんだ」
「辻斬りごときと言うが、未だにその下手人を割り出せていないのが現状だ」
近藤の言葉に土方が一瞬黙った。
「…山崎君を出しておこう」
しぶしぶ土方が言うと、近藤が穏やかに笑った。
「すまないな、歳…」
近藤のそんな笑顔は、
久しぶりに見たと思った。
「麟姐…」
夕暮れの日差しが窓から斜に入りこんで畳を照らす。
鏡台の前で紅を差す麟の後ろに控えていた禿が重苦しく口を開いた。
今日は朝から元気が無く、口数の少なかった彼女がようやく話しだしたことにホッとした。
しかし鏡台からは目を離さずに紅筆を滑らせる。
「昨日また、辻斬りがあったらしゅうて…」
「それがどないしたん?」
「麟姐は怖くないんどすか…?人が豆腐みたいにあっさり斬られてしまうんよ?」
豆腐、というたとえが的を得ている、などと頓珍漢な事を思った。
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