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「京で人が斬られん日なんてあらへんよ。もう怖いなんて、長い事思ってへんなぁ…」
麟は首を傾げる。
またシャン…と頭飾りが音をたてた。
「せやかて!明日は自分の身に降りかかるかもわからへんのですよ?麟姐に何かあったら思うと…うち…」
禿は身を乗り出すようにして叫んだかと思うと、今度は自分の身を抱くように縮こまる。語尾は消えてしまった。
鏡を写して見える禿の一挙一動が、麟には不思議で堪らない。
心配しているんだろうか。
心配して、そんなに悩んでいるのだろうか。
その下手人こそが私だとも知らずに。
コトリ、と紅筆を起き、禿に向き直る。
「雪。あんた、もっと人を疑いなはれ」
柔らかい口調とは裏腹に、刃物のように研ぎ澄まされた声が禿の動きを止めた。
「姐は」
「雪。あんたは」
麟は遮り、禿の近くへ寄った。
そっと抱き締める。
「あんたは心の綺麗な子や。素直な子や。あんたには、うちみたいになって欲しく無いんよ」
禿は、いや、雪は、声を発する事も忘れてただ抱き締められながら壁を見ていた。
初めて見る麟の真剣な表情。
何で今こんな事を言われるのか、皆目見当もつかなかった。
ただ…
「麟姐…姐はんかて、心の綺麗なお人ですよ」
麟が何かに、ひどく傷ついているのはわかった。
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