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それから数日の間は、
何事もなく過ぎていった。
ぽかぽかと暖かかった日差しに誘われて、麟は町に出ていた。
島原の女は普通自由に島原を出るものではないが、女将の目を盗んで店を抜け出すことにかけて麟は名手だった。
最初は店の女将も様々策を講じていたのだが、しまいには諦めてしまった。どっちにしろ、仕事の時間までに麟は帰ってくるのだ。
贔屓にしている甘味屋へ行くか、いっそ着物でも仕立てに行くか。
ガマ口の財布を手に軽い足取りで歩いていると、物々しい男たちの一軍を見かけた。
男達は皆一様に浅葱色にダンダラ模様の入った羽織をまとっている。
(ああ…)
これが壬生浪士組か。
仕事姿をこの目で直に見たことはなかった。刀を腰に差し、威風堂々と歩く様にしばらく目を奪われる。
彼羅に関しては悪い噂ばかり聞くけれど、時雨屋に飲みにやってくる隊士の話なんぞ聞いていれば、別段血に狂った荒くれ者とも思えなかった。
昼間彼羅が町を練り歩くのは、
(巡察、とか言ってたな)
見廻って治安を守っているのだそうだ。
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