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幕府のために命を賭し、
京の町を守るため日々鍛練し。
何がためにそこまでするのかはわからない。何故なのだろう。
ぼーっと見ていると、
先頭を歩いていた男が驚いたように声を上げた。
「あれ?お麟ちゃん!」
「え?」
我に返ってみると、それは藤堂だった。
「買い物か何か?」
麟のガマ口を指さして首を傾げる藤堂。
藤堂はそうやって無邪気な笑顔で世話話を持ちかけてきているのに、周りの町人達ときたら皆真っ青な顔で店に引っ込んでしまった。
それが妙におかしくて、
思わずクスッと笑う。
「え?俺、なんか変?」
「いや…随分嫌われとるんやなあ思うて」
そう言ってまたクスクス笑う。
藤堂も気にしているのかシュンと頷だれた。
「まぁ…色々あるんだよ」
本当に悲しそうな藤堂になんだか良心が痛み、麟は言った。
「八番隊の組長さんやったっけ?隊士の皆さん困ってはるよ。早う戻ってあげはって」
藤堂はこくんと頷くと、隊のほうへ戻っていった。
「また時雨屋に遊びに行くよ」
「ああ、おおきに」
あんなに優しい笑顔をして、仔犬のように頷だれる人でも、刀を腰にさしている。
そしてその刀で、
人を斬るんだろう。
そのとき彼は、
(どんな気持ちなんだろうか)
麟は藤堂の細い背中が見えなくなるまで佇んで考えてみたが、答えは出なかった。
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