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そのままの足で呉服屋へと赴き着物を仕立ててもらった。 鮮やかな浅葱色の地に見事な花火模様が織り込まれている。無意識に浅葱色を選んでしまったのは、おそらく先程の一軍のせい。 澄みわたった青空のような彼等の隊服が、目に焼き付いて離れなかったから。 着物は、その美しさに多少値ははったが、満足のいくものだった。 良い買い物をしたと思いながら店を出る。…と、斜向かいの高利貸しの店から二人の男の怒鳴り声が聞こえてきた。 声と声はしばらく言い争っていたが、途中で一方が店から出てきた。 あの藤堂よりも更に細身の男と、恰幅の良く目つきの悪い男。 直感で、怒鳴っていたのは細身のほうだと思った。 「まったく…あの男」 細身の男はまだ歯軋りをしながら恨めしそうに店を睨んでいたが、もう一人は至極どうでも良さそうに歩を進めていた。 「芹沢先生、あの店主生かしておいてよろしいので?」 細身の男がさらりと物騒な事を言った。が、対する芹沢は特に気にした様子も無い。 「今日はそういう気分じゃねえんだ。気に入らねえんなら指の一、二本頂戴してこい」 こちらはもっと物騒な事を口にした。あんまりな話の内容に麟がぽかんと口を開けていると、芹沢がこちらに気づいた。
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