時雨屋

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京の茜色の空がやがて紺碧に変わる。 ぽつぽつと家々に灯りがともりはじめた頃、少女はゆっくりと身を起こした。 屋根の上だけあって、吹き抜ける風は強い。 漆を塗ったように艶やかな少女の長い黒髪が西風に透けた。 「さて…」 少女は薄紅色の唇をふっと開くと、誰にともなく呟いた。 「今日は何人斬ろうかなぁ…」 屋根から見下ろした往来は、にわかに活気づき、人通りが増え始めた。 町人たちの中には夜の京を恐れて早々と店じまいする者もあるが、ここ島原は違う。 ここは男達が疲れを癒しにやって来る、夜の町。
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