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足先から足の付け根まで震えが走り、思わず麟は道にへたりこんだ。
(なんで…なんで…っ!)
なんで知っているんだ。
鴉を名乗った相手は全て殺してきた。いつも人気のない裏路地を狙った。なのになんで。
へたりこんだまま口を手でおさえる。叫びそうだった。なのにそれをおさえている手まで震えている。
「あんた!怪我はないか?」
先程の高利貸し店から店主と思われる男が飛び出してきた。
「すまんなぁ、俺があいつら追い払ってもうたからに…え、おい、あんた震えとるやないか」
男は早口にまくしたてると、わけのわからない様子の麟の手をとった。
「ほれ、立てるか?あんたもあんたやぞ。壬生狼なんかじっと見とるから」
「壬生、狼…?あの二人が?」
手を借りて立ち上がりながら、ようやく声が出た。
「せや。筆頭局長の芹沢鴨と、もう一人の局長、新見錦」
「局長…」
あれが、局長。
あの人が藤堂や永倉や、原田を束ねているのだ。
異質。
そんな言葉が浮かぶ。
同じ壬生狼でも、あの三人とあの局長では持つ雰囲気がまるで違う。
(ああ…あれなら)
京の町人たちが壬生浪士組を嫌うのも納得できる気がした。
「嬢ちゃん、しっかりしろ。一人で歩けるか?」
店主の言葉に頷いた。
「大丈夫どす。どうもすんまへん」
頭を下げ、踵を返す。
そのまま時雨屋に向かって歩きだした。
今日仕立てたばかりの着物が入った風呂敷を握り直す。
(しばらく『鴉』はあそべない)
頭の中はあの芹沢でいっぱいだった。それが壬生狼となれば余計に。下手をすれば辻斬り犯として捕まってしまうかもしれない。
その想像にぶるっと身震いした。
そんなことになったら、おわりだ。
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