13/14
2495人が本棚に入れています
本棚に追加
/213ページ
足先から足の付け根まで震えが走り、思わず麟は道にへたりこんだ。 (なんで…なんで…っ!) なんで知っているんだ。 鴉を名乗った相手は全て殺してきた。いつも人気のない裏路地を狙った。なのになんで。 へたりこんだまま口を手でおさえる。叫びそうだった。なのにそれをおさえている手まで震えている。 「あんた!怪我はないか?」 先程の高利貸し店から店主と思われる男が飛び出してきた。 「すまんなぁ、俺があいつら追い払ってもうたからに…え、おい、あんた震えとるやないか」 男は早口にまくしたてると、わけのわからない様子の麟の手をとった。 「ほれ、立てるか?あんたもあんたやぞ。壬生狼なんかじっと見とるから」 「壬生、狼…?あの二人が?」 手を借りて立ち上がりながら、ようやく声が出た。 「せや。筆頭局長の芹沢鴨と、もう一人の局長、新見錦」 「局長…」 あれが、局長。 あの人が藤堂や永倉や、原田を束ねているのだ。 異質。 そんな言葉が浮かぶ。 同じ壬生狼でも、あの三人とあの局長では持つ雰囲気がまるで違う。 (ああ…あれなら) 京の町人たちが壬生浪士組を嫌うのも納得できる気がした。 「嬢ちゃん、しっかりしろ。一人で歩けるか?」 店主の言葉に頷いた。 「大丈夫どす。どうもすんまへん」 頭を下げ、踵を返す。 そのまま時雨屋に向かって歩きだした。 今日仕立てたばかりの着物が入った風呂敷を握り直す。 (しばらく『鴉』はあそべない) 頭の中はあの芹沢でいっぱいだった。それが壬生狼となれば余計に。下手をすれば辻斬り犯として捕まってしまうかもしれない。 その想像にぶるっと身震いした。 そんなことになったら、おわりだ。
/213ページ

最初のコメントを投稿しよう!