芹沢と鴉

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驚いているのは向こうだった。 「お前、昼間の…」 新見、だったか? 細身が目をみはった。 「はて…何のお話でっしゃろ」 とぼけて見せる。 この様子だと、自分目当てにこの店に来たのではない。 なら、適当に酒を飲ませて機嫌良く帰らせればいい。 得意分野だ。 あわよくば酔っている彼等を刀で…。いやいや、危険だ。今日のところは様子を見て… 「娘」 芹沢の野太い声に身体がびくりと肩が反応する。 「はい、何でっしゃろ」 落ち着け、心。 大丈夫。きっと上手くいく。 「酒だ。酒を持ってこい」 全て見透かすような目。 嫌いだ。この目を見ると、偽った自分がばらばらと崩れていく気がする。 「それから」 返事をしないうちに芹沢が再び口を開いた。 「お前を所望する」 その時の芹沢の目を見て、麟は思った。 (ああ、この人わかってる) 自分が今考えた浅はかな算段も鴉としての自分も。 「会うてすぐそないな事言うん?大胆なお人やなぁ」 ならば。 せめて最後まで麟として。 鴉として。 全力であがいてみよう。 「そちらの局長さんはどないするん?」 「新見か?こいつにも一人つけてくれ」 麟は艶めかしく笑うと、禿を呼んだ。
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