芹沢と鴉

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「細ぇ指…」 芹沢は、自分の胸に体を預けたまま寝入ってしまった口の指に触れる。 「こんな手でも刀握るんだな」 規則正しい寝息が聞こえる。 窓の外で、空はゆっくりと白み始めていた。 それからというもの、 芹沢はちょくちょく時雨屋に足を運ぶようになった。 時には新見を連れ出って、 また時には一人で。 面白いことに、永倉と二人で訪れることもあった。同門の出なのだそうで、あれだけ雰囲気が違うと思っていたのに並んでみると不思議と馴染んでいた。 物も言わずに酒を注ぐ永倉と、静かに長い話をして、帰っていく。政治や刀の話は麟には難しかった。 芹沢はよく、口を抱いていった。 掻き乱すように抱いては、 他愛もない話をして帰っていった。 口もまた、芹沢とそうやって過ごす時間が嫌いではなかった。 芹沢といる時だけ、 口は口でいられたのだ。 麟ではなく、口として。 人殺しの、鴉として。
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