2497人が本棚に入れています
本棚に追加
/213ページ
「申し訳ありまへん」
男が深く頭を下げると、
土方は苦い顔をした。
「駄目か」
「仕事貰うた日ぃから毎晩張ってるんですが…あれ以来ぱったりです」
「奴さんが尻尾出さねえんじゃ仕方ねえな…」
土方はキセルの煙をふーっと吐き出した。
「気づかれたと思うか?」
「いや…不可能やと思います」
だよな、と土方は苦々し気に眉を寄せた。
対する男、山崎丞(すすむ)もまた唇を噛み締めている。
監察方の山崎が配備された途端例の辻斬りがぱったりと止んでしまったのだ。
これではさすがの監察方も手の出しようがない。
まるでこちらの思惑を全て読んでいるかのような辻斬り犯の行動に、土方にも顔にも焦りが伺える。
「副長」
山崎が鋭い目で土方を見た。
「これはあくまでも仮定ですけど…」
土方は書類から山崎に視線を移した。途端、山崎のギラッとした視線とぶつかる。
「局ン中にそいつ手引きしとる奴がいるんちゃいますやろか」
土方がにやりと口角を上げた。
「お前もそう思うか」
二人は再び視線をぶつけ、
互いにふっと笑った。
「鼠がいるなら鼠取りを仕掛けておかねぇとな」
最初のコメントを投稿しよう!