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「麟(りん)姐はん、また屋根に上がってはるんですか?」
少女が風向きを見ていた時、ふいに下方から声がした。
上から顔を覗かせると、窓からこちらを見上げている禿(かむろ)と目が合う。
禿は呆れたようにため息をついて、屋根の上の少女を見やった。
「もう、年頃の女性が屋根に登ったりなんぞいけまへんていつも言うてるでしょう。ただでさえ今日は特別なお客さんがお見えになるんですのに」
ぷうっと頬を膨らませた禿の顔があまりにも子供らしいので、少女はつい笑い出した。
「ちょ、姐はん!なに笑うてはるんです!」
「堪忍、堪忍!」
それでも溢れる笑いを押し殺しつつ、少女は屋根から裏口の方の地面へと降りたった。
「せやなぁ…今日は蝶の模様の緋の着物がええなぁ…」
地面から禿に向かってそう言うと、少女は裏口へと消えた。
「まったく…姐はんにも困ったもんやわ」
禿もまたそう溢しながらも、少女の所望した着物を探すべく窓から離れていった。
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