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「よし、決めたわ!」
「…な、なにをです?」
禿はまだ顔が赤い。
「自分の目ぇで見てくるわ」
「え、ちょ、え?」
「今日、浅葱の着物がええな」
それだけ言うと、麟はひらりと部屋を出ていってしまった。
「あっ………もう!」
禿は今日もまた深い溜め息。
ちりん…と風鈴が揺れた。
壬生浪士組屯所。
隊内での密かな花札流行と芹沢や永倉達の贔屓ということもあって、浪士組の面々とはそれなりに顔見知りであったが、実際に屯所を訪ねたのは勿論初めてのことだ。
門の前には隊士が二人。
ちらりと中を覗きたいだけなのだ。面倒事は極力避けたい。
仕方がないので、そ知らぬ振りをして塀添いに歩きだした。
(この中に住んでるんだ…)
芹沢の話によれば、
今芹沢は梅と共に屯所で暮らしている。屯所は女人禁制と聞いていたが、局長の芹沢だから許されるのかもしれない。
塀の中からは竹刀の打ち合う音と隊士達の掛け声が絶え間なく響いてくる。
馴染みはないはずなのに、清々しく涼し気なその音が耳に懐しい気がする。
そんな中、
「なぁ、芹沢はん」
その甘ったるい声は、
塀の中から聞こえてきた。
思わず足を止める。
「かんざし買うて?」
「かんざしなんか腐るほどあるじゃねえか」
続いて芹沢の声。
不機嫌そうな言い方ではあったが、満更でもないのがわかる。
「ええやないの。かんざしは女の命なんえ?」
甘えた声に眉を潜める。
この女と自分が似ている?
冗談じゃない。
(綺麗な人なのかな)
せめて帰る前に顔の一つでも見ておこうと、塀に手をかけた。
その時。
「動くなや」
小さいが、低く脅すような声。と、共に首に刃物をつきつけられた。
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