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暫しの間声を発するのも忘れ、
その美しい人に見入っていた。
艶のある黒髪は頭上にゆったりと結い上げられて、かんざしが綺羅綺羅光っている。
肌は透き通るように白く、
唇は熟れたイチジクのようにみずみずしかった。
「そないじぃっと見んといて」
見つめていた唇が柔らかに動いて茶化したような声を発した。
穴があくほど凝視していた自分に気づいて、麟は慌てて下を向く。
「あら、恥ずかしがらんでもええのに」
クスクスと笑いながら、
畳を踏みしめて近づいてくる。
「そんじゃ、俺はこれで」
「えっ、どこに…」
「ちょっとばかし、糞餓鬼共のとこにな」
芹沢は意味あり気にニヤリと笑うと、麟と梅をその場に残して行ってしまった。
「え、と…餓鬼言うんは…」
「ああ、近所の子たち。芹沢はんもああ見えて子供好きやからねぇ。よう読み書き教えてやったり、絵書いてやったりしとるんよ」
梅は少し切な気に目を伏せた。
長い睫毛が瞬くたび揺れる。
「あの子ら、いつも遊んどるおじさんがあの芹沢鴨や言うたらどんな顔すんのやろな」
(芹沢…鴨って言うんだ)
ぼーっと思う。
鴉と鴨。
おかしな取り合わせ。
芹沢が子供と笑い合う姿なんぞ想像すら出来なかった。
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