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「茶ぁ入れよか」
「え、いや、ええですて!」
慌てて止めると、梅は少々つまらなそうに口を尖らせた。
「えー?おもろいのになぁ」
茶をいれる行動のどこがそんなに面白いのか麟には理解できなかった。不思議な女である。
「あんたはんの話はよう聞いとる」
梅は慈しむような眼差しを麟に注ぐ。
「生意気で子供らしくなくて、でも憎めんのやて」
「子供とちゃいます…」
ぶーっと膨れると、梅は手を口に当てて笑った。
「ほら、すぐすねるのはこーどーも」
くすくす笑うたびに白い歯が覗いた。
麟は、思い切った事を聞いてみた。
「あいつの事、好いてはるんですか?」
「あいつて…芹沢はん?」
梅の艶々した目が面白いほど丸くなった。
恐怖の代名詞のような男を年端もいかない小娘があいつ呼ばわりとは。
「まあ、かんざしよりかはな」
気の強そうな眼差しがふっと和らぐ。その表情が言葉以上に芹沢への深い想いを魅せていた。
麟もつられて、目を細めた。
「うちなぁ、呉服屋の妾やったんよ」
暫く話しているうち、
ぽつりと梅が言った。
「妾ってことは…」
「せや。旦那がおった」
でもなぁ、と梅は溜め息混じりに呟く。
「旦那が好いとったんは、うちの顔だけやってん。うちはただ綺麗な着物着て人形みたいに座っとけば良かった。あの人には本妻がおったし、うちは家具かなんかと一緒で、綺麗だから置いとくだけのもんやったんよ」
梅は終始笑顔を崩さなかったがその目はどこか焦点が曖昧だった。
美しいということは、
良い事だと信じて疑わなかった麟にとってその話はどこか現実味がなくて。
そしてこんなにも嫌味なく、
自分の美しさを自覚する人も初めて見たと思った。
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