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「うちはあの人に早う気づいて欲しかってん。うちもちゃんと血ぃ流れとって、物考える人間やてこと。人形とはちゃうんやーって」
「でも気づいてもらえんかったんですね?」
梅はこくっと頷いた。
「いっそ死のうか思うた事もあったわ。そしたらあの人も気づくんちゃうやろかって」
はんっと乾いた笑い。
「阿呆やなあ。余計忘れられてまうだけやのに」
「……」
何も言ってあげられない自分が情けなかった。わかったような事を言うのは、嫌だから。
「ん、でもなぁ?うち一度だけ仕事手伝うた事あるんよ。…本妻が体壊して手が足りんようになった日に、屯所まで芹沢はんの借金の催促になぁ。そんで…そのまんま」
「そう…やったんですか」
なんだか目を合わせるのが気まずくて視線を落とす。畳は少しささくれ立っていた。
「ん、そんな顔しぃひんで。うちは今とぉーっても、幸せなんやから」
ふわっと笑顔。
本当に梅が花開いたかのよう。
「芹沢はんは、うちを人間やてちゃんとわかっとる。何の遠慮もせんと、うちの事小突いたり叱ったりすんのや。茶ぁ入れたんも此処に来て初めてやった」
それはもう幸せそうな笑顔で。
(それでお茶いれたがって…)
「旦那も、相手があの芹沢や聞いて諦めたんちゃう?うちの事愛してたんとちゃうもん。きっとすぐ割り切る」
「そんなこと…」
「ある」
梅は言い切った。
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