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「いやぁ、三人で島原なんか久々じゃねえか。なあ?新八」
顔に傷のある大男が、傍らを歩く小柄な男に上機嫌で話しかける。
「まあ、たまにはいいんじゃねえの」
小柄な男――永倉新八も、口ではそう返しながらも顔をほころばせていた。
体つきに似合わない上等の刀がその腰から提げられている。
懐手した永倉はその刀にちらちらと目をやる往来の人間を気にするでもなく、首を鳴らした。
「んで、店はどこなんだよ平助?」
大男が、今度は永倉を挟んで向こう側を歩く細身の男に声をかけた。
この男、藤堂平助…こちらは永倉よりも更に刀に似合わない風情だ。
背ばかり伸びたのだと言わんばかりの童顔は、そこいらを駆け回る少年らと何も変わらない。その姿に似た細身の刀を携えているのでなかったら、島原の娘たちはこの少年に一瞥だってくれてやらなかっただろう。
「んー、確かこの辺」
「ったく、適当だなー」
「左之にだけは言われたくないね」
とりとめもなく笑い合う二人を横目に、永倉が一人足を止めた。
「なぁ、平助ここか?」
【時雨屋】と書かれた看板を顎でしゃくりながら永倉がふりかえる。
ああ、と藤堂が大きな目をくりくりさせた。
「そうそう!ここだよここ」
「しぐれや、ねえ。洒落た名だなァこりゃあまた」
大男、原田左之助が苦みのある笑みをこぼすのをさも面白そうに眺めながら、藤堂、永倉両人は店の暖簾をくぐった。
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