かんざし

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それから数日ののち。 麟は禿と共に甘味屋にやって来ていた。 二人はよく連れ立ってここへ来る。それほど生活に余裕があるわけではないが、これくらいの贅沢なら許されるだろう。 「あ、麟姐!見て」 禿が指した先には、 永倉、藤堂、原田の三人組。 大の男が揃いも揃って幸せそうに汁粉をすすっていた。 「なんや、新さんやないの」 麟が声をかけると、 三人が振り返る。 「え、新八だけ?俺らは?」 「ああ、平ちゃんと左之ちゃんも居たんやね」 言うと、藤堂があからさまに傷ついた顔をした。 「が、眼中に無い」 ずーん、と沈み込む藤堂を見て何かを思い出した麟は、意地悪く後ろを振り返った。 「雪ぃ、何やっとうの」 禿はうつむいたまま近寄って来ない。一瞬顔を上げ、藤堂をその目に留めるとまたあわあわと下を向いてしまった。 「ほおら」 「わわわ」 じれったくなり、麟は禿の手を取って三人組のほうへ引き寄せた。 「雪ちゃんよぉ、そんなあからさまに怖がるなって」 「いや、左之みたいな大男を町で見たら怖がれ。むしろ逃げろ。雪ちゃんの動物的勘は間違ってない」 「し、新八…」 麟は二人の会話を聞いて呑気にくすくす笑っていたのだが、禿はと言えば原田と永倉の会話などまるで耳に入らない様子。 (顔、林檎みたい) 麟は禿の微笑ましいその様に見とれた。 「で、新さん達はここで何しててん?」 「見ての通り、甘味を堪能中」 永倉が汁粉をかかげて見せる。 「非番の時って暇なんだよね」 「女もいないしな」 「全くだ」 ようやく復活した藤堂に続き、原田、永倉が口を出し、遠い目をしながら互いに頷き合った。 ぷ、と禿がついに吹き出す。 「え、雪ちゃん酷い」 藤堂が仔犬のような目。 「す、すいまへん!…いや…おもろくて…っ」 そこまで言うと禿は声を上げて笑い出した。 四人もそれを見て吹き出した。
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