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「巡察の後はやっぱり甘味ですよねえ」
汁粉を食べ終わった原田と藤堂の横で沖田と永倉が餡蜜を頬張る。
「いや、総司は今来たからアレだけど、新八っつぁんまだ食うのか」
「甘味は心の栄養だろ」
永倉は涼しい顔で返す。
餡蜜組の隣には、麟と禿も腰掛けて団子を食べていた。
「ここの甘味は別格ですよね」
沖田がにこにこと麟に話しかける。
「あ、やっぱり?」
パッと顔を輝かせる麟。
「おっ、ここの甘味の良さがわかるなんてお前らなかなかやるな」
永倉がずいっと二人に近寄って話の輪に加わる。
最近ここの店が小豆の仕入れ先を変えたことに始まり、幸せそうに甘味のいろはを語り出した三人を前に、藤堂、原田、禿は顔を見合わせて深い溜め息を漏らした。
さて。
とある大事件が起こったのは、
そんな幸せな日の数日後の事。
「せやから、あんたはんに貸す金なんぞ一文もございやせん」
威勢の良い声。
しかしその目には微かに恐怖の色が浮かんでいた。
ここはいつかの高利貸し店。
鉄扇で暑さを紛らわせている芹沢に相対している店主は、きっぱりと言い切った。
芹沢は視線をよこしただけで何も言わなかったが、新見はそうはいかない。
「貴様っ、先生に何て態度だ」
ぐっと睨みつけると、店主も負けじと睨み返してきた。
「他人の妾さらうような奴に態度も何もあらへんやろ。まああの女かて器量が良いのを武器にして男に媚びるって噂やったからな、お似合いなんやないの」
店主はまくしたてるように言うと、してやったり顔で笑った。
新見は顔を真っ赤にして言い返そうとした。が、それよりも前に芹沢が口を開く。
「新見ぃ」
怒っているような声ではなかった。ただ低く低く、地の底から這い上がってきたような声。
新見はびくりとした。
芹沢がこんな声を出すときどうなるか、彼は身をもって知っている。
「燃やせ」
無表情のまま、芹沢は鉄扇で蔵を指した―――。
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