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永倉は紅をさした少女の美しい口元に八重歯を見つけて、何かを思い出しかけたのだが、それも束の間のことですぐに忘れてしまった。誰かに似ているような気がしたのだ。
「北方山向こうより新しく美酒が入っておりますゆえ、なんなりと」
「はい、飲みたいです!」
鱗が言うなり藤堂が威勢良く手をあげる。
「ほな、持ってこさせますな」
藤堂の微笑ましさに笑顔を見せてから麟がパンパンと手を叩くと、
すっと障子が開き、廊下で待機していた禿が顔を覗かせた。
「お呼びですか?」
「例のお酒ね、頼んます」
禿は頷き、一礼して障子を閉めた。
再び三人に向き直った鱗は、先ほどまでとはまるで違う異様な空気にはっとした。
凍り付くような、殺気。
藤堂が冷たい目をして、鱗に告げた。
「花札、しよう」
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