存在出来ない物語

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   序  創ってはならない、物語がある。  物語は遥かな昔から管理され、創ってはならない物語は創られる事が無い。  そのため、創ってはならない物語が創られた時、何が起こるのか知る者はいない。  知っている者は、いない。  管理者の他には。  書いてはならない、物語がある。  その物語は、語里(カタリ)の一族が管理し、見張っているとされ、物語の製作者は素早くこの世界から削除されると言う。  此所に一人、書いてはならない物語を書いた者が、いた。    一  一人の女性が、街中を歩いていた。  何処かの女子高生達と、すれ違う。  制服を着た彼女達は、今流行の映画について話している様だった。 「ねぇ、見た?あれ。」 「見たよ。ハマった。原作まで買っちゃったよ。」 「珍しいね。」 「けどホント、マジやばいって。原作者、奈加乃だっけ?」 ――奈加乃、  その名を耳にした瞬間、女性は走り出す。  その名から、逃げる様に。  女性は、気がつくと普段からよく来る大型の書店の前にいた。  入口を入ったすぐそこに、“話題の本”と称したコーナーが広がる。 奈加乃 作、……   とうとう漫画化!! 〇〇本誌にて連載中  女性は踵を返してその場から立ち去った。  女性は大学に通学する時利用する駅の前にいた。  電光掲示板を、ぼうっと眺めている。  掲示板に今日のニュースが流れる。 『最新情報・記録更新!!奈加乃の……』  女性は俯き、走り出す。  掲示板を視界に入れない様に。    二 ――ナカノ。遊ぼう!  眼を閉じると心の底から響く、声がある。  キミはいつも、その声にこう答えるのだ。 ――うん!カイ。遊ぼう!  あの頃は、自由だった。  かつてカイと呼ばれた女性は、そう思う。  オトナノジジョーなんて物に逆らわなければ、何でも出来た。  あの頃に戻りたい。  戻って、ナカノと共に、また世界を創るのだ。    三 「……貴女、奈加乃ね?」  ある日突然、その声は背中の方から響いた。  その声は、知っていた。彼女が奈加乃だという事を。 「どうしてそう思うの。」  答える声は、自分でもそれとわかる程に震えていた。 「貴女は奈加乃。自らのペンネームにかつての友の名を付けた。」  どうして、そんな事まで?誰にも話していないのに!  女性は、怯えた様に言った。
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