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落ち着いた声の主である少女は、只静かに彼女を睥睨している様だった。
「そして貴女の名前は戒。戒めの為の偽りの名。」
女性は、眼を丸くするばかりだった。
どうして、
何故、
どの様にして、
そんな事を知っているのだろうか。
女性――かつて戒と名乗った、奈加乃というペンネームを持つ彼女の心の中を読んだかの様な、少女の反応。
「知っている。私は物語の監視者にして管理者の一族である、語里の者なのだから。」
カタリ。
聞き覚えの無い名である。
「貴女、何?」
「物語の監視者にして管理者。その資格を担うモノの一端。[世界図書館]現代文学課、通称[カタリの里]の一員。」
「何をするの?」
「始末。」
意味がわからない。
「何を、始末するの?」
呪われた物語の制作者。
そう言った少女は、怖い程の無表情だった。
「誰が、呪われた物語を創ったの?」
「物語を創った事により、世界に嫌われ、憎まれ、恨まれ、哀しまれ、そしてそのまま一定期間何もしない者。それが語里の規定。
新たな規定出来ない物語を世の中に著した者。それが[世界図書館]現代文学課の規定。」
少女はそこで初めて表情らしき物をその顔に浮かべる。 哀れむ様な、微笑む様な表情。
「この場合は貴女よ。奈加乃。」
終
奈加乃というペンネームの作家がいたという。
彼女の作品は、何処にもない。
一時世間の皆が知っていたその作品を、記憶している者は、殆どいない。
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