推理小説(前)

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   序  書いてはならない、物語がある。  その物語は、語里(カタリ)の一族が管理し、見張っているとされ、物語の製作者は素早くこの世界から削除されると言う。  此所に一人、書いてはならない物語を書いた者が、いた。    一  はぁ……はぁ……  その人影は逃げていた。  はぁ……はぁ……  カタチの無い何かから。  はぁ……はぁ……  追って来る。追って来る。  はぁ……はぁ……  助けて、タスケテ。  はぁ……はぁ……  逃げられない。  はぁ……はぁ……  何処に逃げれば良い。  はぁ……はぁ……  繋がっていない所。    三  一人の少女がその島へ来訪したのは、私がその少女と同じ様に島に来た、その五日後の事だった。  その少女は、私とは違い純粋な休暇で島へと来たらしい。私等は休暇は外出するより家でのんびりしていたいと思うのだが、彼女にとっては違うらしかった。  少女は、超能力者らしい。  名を、カタリと言った。    四 「お初にお目にかかります。カタリと申します。滞在中色々と御迷惑をお掛けするとは思いますが、何卒宜しく御願い致します。」  その島に居た全員の目の前で、僅か十三にも満たないであろう少女は、そう言ってのけた。 「良いよ。君みたいな可愛い女の子に迷惑かけられて、喜ぶ人はいても、悲しむ人はいないから。」  そう言うのは、たった今ロリコン疑惑が浮上した男、知多義幸。 「黙れ変態。」  的確な突っ込みを入れたのは、知多の同行者の浅野融だ。 「そ、そんなにお堅くなさらずとも。せっかくの休暇です、楽しんで下さいな。」  島の持ち主の多有螺 裕子(たゆら ゆうこ)さんは、とても良い人だ。もっと威張っても良いと思う。この人は腰が低過ぎる。 「おぉ!女の子や!ヨロシクなぁ。」  んな事言う似非関西弁は、不本意な事に私と友佳の同行者、安田弓都(やすだ ゆと)。性別は女の筈だが。 「カタリさん。親しくしてくださいね。」  二之宮友佳(にのみや ゆか)もそう言って眼鏡ごしに微笑む。  皆、少女を好ましく思った様だった。  私は現在話す事が出来ないから会釈に止めたのだが、判って貰えただろうか。
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