空白

18/25
前へ
/803ページ
次へ
アベルは、そこで言葉を切って、ロスマンズに火を着けた。 瞳を伏せ、深々と吸い込んで、ゆっくりと煙を吐き出す。 掘りの深い影が、憂いを帯びて眉間に浮かび上がっている。 「しかもそれが、若くて、美しい女性の嘆きなら尚の事だ。 …違いますか?」 俺は、思わず吹き出しかけて、慌てて懸命に堪えた。 どうやら、本物の酔客のようだ。 「大尉は元気なのかい?」 俺は、笑いを堪えながら、話の矛先を変えてみる。 「私は、見ての通りの躯ですからね。 大尉の戦車部隊には、残念ながら、残れませんでした。」 アベルは、スツールの上で、両手を広げて見せた。 そのまま、肩を竦めて、お道化た仕草で笑う。 確かに、狭苦しい戦車の中では、その長い手足は不便極まりないだろうな。
/803ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9080人が本棚に入れています
本棚に追加