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アベルは、そこで言葉を切って、ロスマンズに火を着けた。
瞳を伏せ、深々と吸い込んで、ゆっくりと煙を吐き出す。
掘りの深い影が、憂いを帯びて眉間に浮かび上がっている。
「しかもそれが、若くて、美しい女性の嘆きなら尚の事だ。
…違いますか?」
俺は、思わず吹き出しかけて、慌てて懸命に堪えた。
どうやら、本物の酔客のようだ。
「大尉は元気なのかい?」
俺は、笑いを堪えながら、話の矛先を変えてみる。
「私は、見ての通りの躯ですからね。
大尉の戦車部隊には、残念ながら、残れませんでした。」
アベルは、スツールの上で、両手を広げて見せた。
そのまま、肩を竦めて、お道化た仕草で笑う。
確かに、狭苦しい戦車の中では、その長い手足は不便極まりないだろうな。
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