空白

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あんなに嫌っていた筈の戦場が、なんだか、とても懐かしく感じられる。 俺は、少し『ヤワ』になっているのかも知れない。 自嘲気味に笑って、マールボロに火を移した。 溜め息混じりの煙が、やけに、のんびりと形を変えながら、宙を漂っていく。 ノーラに、鍛え直して貰うのも悪くは無い。 俺は、ストレートグラスを一気に傾けて、スツールから立ち上がった。 「行くのかい?」 親父さんが、パイプの煙越しに笑った。 「あぁ、少し、躯を動かしたくなった。 …ジムへ戻るよ。」 俺は、アベルに向かって微笑みかけた。 「旨い酒を有り難う。 また、逢えるといいな。 …次は、バーボンにも付き合ってくれよ。」 アベルは、振り返らずに横顔だけで微笑んだ。 「…そうですね、また、いずれ…。」 俺は、ゆっくりと躯の向きを変えて、背中ごしに手を挙げた。 明けない夜の街の、長い夜が始まろうとしていた。
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