聖域

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俺は、再び瞳を閉じた。 風の音。 せせらぎの水音。 草木や花、枝や葉が揺れる、優しげなざわめき。 遠くで、郭公の鳴く声がする。 いや、近くの野原からは、雲雀のさえずりが響いている。 …静かだ。 優しさに満ち溢れた静けさ。 ……ん。 俺は、ゆっくりと寝返りを打った。 木漏れ日が、俺の躯を滑り落ち、辺りの草木の匂いを立ち昇らせる。 青臭く、少し湿り気を帯びた、ひどく懐かしい匂い。 大地の、土の匂いだ。 そして、お日様の匂い。 …ふふっ。 懐かしいな。 …これは、アレだ。 …そう、夏休みの匂いだな…。 俺は、幸せだった少年時代を思い出した。 あの頃はまだ、都市の外にも人間の世界があったんだよな…。 俺は、胸一杯に草いきれを吸い込んだ。
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