◆コイビト

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「お前の、におい俺につけて。」 彼につけられた香水は、所有の証し。 けれども、彼は猫のように次から次へと、寝床を探し、居つかない。 「一度だけ…、キ…ス、…させて欲しい。」 震える声で一言だけ…。 ―あぁ堕ちた。 彼の纏う闇に、ひきずられる。 抗うことのできない、不思議な引力。 微かに、彼の唇の端が上がった。 それに僕は気付かない。 夢遊病者のようにフラフラと、その唇に引き寄せられた。 僕にはもう、常識だとか理性だとか、全てを判断する能力が欠落してしまった。 何も考えることができない。 彼の薄い唇に自分の唇を近づける。 彼は瞳を閉じて、首を傾けて待っている。 最後の一線。 越えてはいけないと、頭の片隅で木霊する。 『は・や・く。』 なかなかキスをしない僕に焦れて、急かす。 ―もう、ダメだ…。 そっと、唇を、合わせる。 冷たい感触が僕の唇を覆う。 僕は胸が痛んだ。 チリチリと心の赤い糸の導火線に、火が灯された。 ―堕ちる…。甘美で、心地良く、そして全身が、静かに冷えていく。
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