66人が本棚に入れています
本棚に追加
手袋もつけていないようで、片方はポケットから出すことも嫌がっている。
肩の鞄を掛け直しマフラーを外した。
まさか貸すだなんて思っていなかったのだろう。驚いている銀八にマフラーを巻く。
「冷過ぎるとえいことない。ぁ、でも馬鹿は風邪引かにかーらんとか……」
少し馬鹿にするように言えば気分を害したようで、眉間に皺を寄せた。
でも直ぐに人を馬鹿にしたような憎らしい顔をした。
「銀さんは馬鹿じゃないから引きますぅ、お前は引かねぇんだろ?羨ましいよ」
「アッハッハッ、げにまっことひどい奴じゃあ」
「うっせぇ」
嫌らしい表情を消し、ふと目を伏せた銀八は「サンキュ」と小さな声で言った。照れ隠しなのかマフラーを鼻の上まで引っ張り上げ、歩調を上げた。
そんな銀八につい笑みが溢れた。
そうこう歩いているうちに学校が見えてきた。
校門に入り、そういえは今日はスクーターを持ってないな…と銀八の相棒が居ないことに今更ながら気付いた。
「のう、ぎんぱちい」
「ぁン?」
「今日はスクーターはお休みなが?」
何気なく尋ねれば苦虫を噛み潰した様な顔をした。
何かあったのか、と尋ねれば、ぐぅっと黙り、マフラーで口元を隠した。
校舎に入り靴を脱いだところでようやく口を開いた。
「事故った」
「………………は?」
思っても見なかった一言に靴を掴んだ手が緩んだ。落としはしなかったけども。
「雪降ってる日にスクーター乗ってたわけよ」
靴箱の中を用心深くチェックした後、少し残念そうな表情をして靴を入れた。何だか報われない……
その後、こんな所で話す気は無いのだろう。トントンと急かすように来客用スリッパをならしている。
はいはい、と下駄箱を開けると紅い箱。
はて?昨日はなかったけども…今朝入れられたのだろうか。
そうしてる間にも銀時は事故のことを言っている。
どうやらスリップしてスクーターが逝ってしまったらしい。
「おんしにはどこにも怪我はなかったなが?」
箱は後々空けることにしよう、と鞄の中に、それの代わりに靴を入れた。
それから銀時同様、来客用スリッパに足を突っ込んだ。銀時はそれを確認すると廊下を歩き出した。
「怪我なんてするわきゃねぇだろ、銀さんだぜ?ちょいちょいっとうまい具合いにな。」
「アッハッハッ、それはえかった。」
最初のコメントを投稿しよう!