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階下に行き、用を済ませると少しリビングの方へと寄った。
そこはごく一般的なリビングで、部屋の中央にソファ、その前には三十インチほどの液晶テレビがある。
壁にはカレンダーやら時計、有名な猫型ロボットが印刷されたポスターなどがあり、奥には空から差し込む太陽が眩しい、庭へと続く窓があった。
その中の真ん中にブロンドの髪を携えた真奈がいて、どこか思わしげに貴の持っていたファイルを覗き込んでいる。
千代はそっと近づき、真奈の背後に近づくと、「わっ!」と真奈の背中を叩いた。途端、彼女の背中は跳ね飛ぶように上下し、「キャッ!」と小さく悲鳴を上げた。
「びっくりしたぁ……もう、脅かさないで下さいよ」
「ごめん、ごめん。えっと、貴は?」
「貴なら人を呼びに行きましたよ。応援~みたいな」
真奈は腕を高らかと上げて、言った。
千代は首を傾げる。応援とは何の事であろう。貴はあの性格だ、友達とかなんていないはず。――優花さんかな?
「それと、あの娘のお母さんも出ていきました。なんだか、包丁が無くなったとか何とか言って」
「ふ~ん。……ってことは今、この家にいるの私達だけか!?」
「そですね」
真奈は柔和な顔付きでそう答えた。
「あ、そだ。私、やらないといけないことがあったんだ」
「やらないといけないこと?」
千代が少しだけ伺うような感じで尋ねると彼女は「うん」と頷いた。
「ちょびっと、気になることがあって……少し出てきますね」
「家を!?」
千代が慌てて聞くと、「そうですけど?」と当然だろうと言わんばかりの表情で千代の方に向き直る。
「私、一人になっちゃうじゃん」
「大丈夫ですよ。幽霊が出るって訳じゃありませんし、友香ちゃんもいるじゃありませんか」
淡く微笑んで見せる真奈にどこか違和感を覚えながら、千代はため息を気付かれないようについた。
千代が怖いのは友香ちゃんですよ、と言いたかった。
だが、そう言っては友香に失礼であるし、真奈より年上なのに、怖がりというのは恥ずかしいので、強がって千代は「そうね」と言う。
それを聞くと真奈は立ち上がって、手に持ったファイルを千代の胸に押し付けた。
「それ、今回の事件のファイルです。見ておいて下さい」
「……うん」
真奈は笑って、部屋を後にした。
千代はただ一人部屋に残され、これから起きる悪夢を肌で感じ取った。
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