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黒髪の二本のおさげをぶら下げた少女は眠たそうに欠伸をついた。およそバカバカし気に目の前の校舎の壁に設置された焼却炉を見ている。
その焼却炉はゴミを燃やす為のものだ。先程、少女はゴミをここに投げ捨てた。今も轟々と勢い良く燃え、焼却炉の頭にある煙突から黒い煙を排出している。
ゴミを棄てたのはゴミ廃棄の当番であるから当然であるのだが、それだけではない雰囲気を少女は醸し出していた。
制服のポケットから小さなぬいぐるみを出した。小さな拳大程の熊に似た古びて、糸がほつれた、いかにも年代もののぬいぐるみである。
少女はそのぬいぐるみと焼却炉を交互に何度も見た。何かを迷っている…そんな表情だ。
「良い彼氏が出来ますように…」
少女はそう願って、ぬいぐるみを燃え盛る炎の中に放り込んだ。
放り込まれたぬいぐるみは炎に呑まれるように形を炎に同化させて行き、そして消え去った。またさらなる黒い煙が煙突から出る。
少女はそれを暫く、見続けた後、ふっと淡く笑んだ。
「こんなんで願いごとが叶うわけないよねぇ」
自嘲気味に言った瞬間、背筋を何かが通り抜けるように悪寒が走った。少女はバッと後ろを振り向いた。
そこには何もいない。ただ林と校舎とを挟むフェンスがあるだけだ。
ただそこで何かに見られていた、そんな気がしたのだが気のせいだと自分に言い込み、気にしないよう首を横に振った。
けれども何と無く気味が悪いので、横に置いてあったぶら下げる学生鞄を肩に下げ、その場から立ち去るように少し速足で走った。
木々が並ぶ雑木林の中を駆け抜けた。早く帰りたいそんな気分であった。
気分が悪い。嫌な気がする。体が怠い。頭も少し痛い。
そんなものが身体を重くした。
不意に少女は足を止めた。身体が重くなる。足が動かない。目が痛い。呼吸が出来ない。
少女の肩から鞄が滑り落ちた。それから少女は膝を曲げ、その場に座り込んだ。
「あ…いや、来ないで…来ないで…いやぁ」
少女は突如、何かを拒否するように呟き、頭を腕で支えた。
その時、真横で何かが現れ、少女の身体を貫いた。
少女が見たそれは黒い煙のようなものであった。
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