430人が本棚に入れています
本棚に追加
「ま、まぁ…いいじゃない、今は。ここで幾ら考えたって答えが出るものでもないし」
突然、明るくなった真奈は軽快に声を上げる。
「……ああ、そうだな」
「取り敢えず、この話は置いておきましょ? それより、最近はどうだった?五年振りなんだし、色々変わったことあったでしょ?」
待ち侘びたとでも言うかのように、腕で顎に杖付きながら、微笑みを浮かべた。
「……別に、何にもなかったが?」
貴は無愛想にそっぽを向いた。
「無いことないでしょ?五年間もあったんだから」
蠱惑な笑みを見せる真奈は愉しむように目の前の赤ワインが注がれたグラスを揺らして、少し飲んだ。
貴はフンッと息を吐いて、真奈の手元のグラスを見る。
「未成年だろう?」
「いいじゃない。外国では私の歳でも普通に飲めるわよ?」
「ここは日本だ」
と言って、貴はグラスに注がれた水を飲んだ。
「貴は飲まないの?飲めるでしょ?」
「酒は嫌いだ。飲んでるやつも」
「あら、誰のことかしら?」
わざとらしくワインを口に付けて見せた。
「訂正するよ。酒を飲んでる奴じゃなく、酒が飲めることを自慢げに見せ付ける奴だ」
お手上げと手を貴が上げて見せると真奈はそれが受けたようで、声を上げて笑った。
そこは大して、人はいなかったから良かったものの、ここは大声で笑うような所ではないので、真奈は「失敗、失敗」と呟いて咳をひとつした。
その後、顔を上げて、柔らかく笑む。
「でも、本当に変わったね。貴は。前はそんな冗談言わなかったでしょ?」
「別段、冗談で言ったつもりはないが…」
しれっとした顔付きと淡々とした口調でこう切り返した。
それに苦笑いをして、真奈は首を横に振る。
「やっぱり、変わった。どういった心境の変化?昔はもっと冷たかったじゃない。口は聞かない、目は合わせない、顔を向けない。それらのオンパレード。まぁ、それも良かったけどね。…五年前から何かあった?」
不意の質問、貴は押し黙る。真奈はまるで虎視眈々と貴が何か口を滑らせるのを待っているかのようだった。
「……別に」
「別にってことはないでしょ?」
「特にはない。強いて言えば、三年に入ってからアレの情報を見つけれたことくらいだ」
その間、貴は何も見つけることが出来なかった。一年、二年と学校に登校し、千代の周辺を探りながら母親の情報を探していたものの特に何も見つかることはなかった。
最初のコメントを投稿しよう!