否定

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自分に向かってさえこなければ幾ら、酒を飲んでもらっても結構なのだが、今回は自分に向かってくる。そう思うとため息しか出てこない。 貴はいつも、酒を飲んでいる人を見ると思う。何故、そこまでして、飲みたいなどと思うのか、と…。 自分の感情を高ぶらせて、何が嬉しいのか、何が愉しいのか、それが全く理解出来ない。自分のだらし無い姿を露呈して、他人にせせら笑われる。それのどこが良いのだ? 理解に苦しむ。 目の前で顔を真っ赤に紅潮させて、目尻を垂らしている真奈を一瞥してから、貴は立ち上がった。 「どぉしたのぅ?トイレぇ?」 語尾がはっきりしない真奈は確実に酔っていた。 貴は呆れる。 真奈は大してワインを飲んで無かったはずだ。グラスワインを一杯と少し程度。しかもワインだけでだ。そんなにアルコールも強くはない。 「帰ろう。酔い始めたみたいだし、送っていくよ」 「そぉう?わかったぁ」 真奈は立ち上がって、おぼつかない足取りで歩き始めた貴の背中に飛び込んだ。 「もぅ、足が動かなぁい」 ここで貴は引きはがして、後ろに突き飛ばそうかと思ったのだが、それを今するのは少し危なかったし、やっても喜ぶだけなので止めた。 「……まったく…」 とぼやいて、貴は真奈を背中に背負った。ダイエットをしているのか、彼女は軽い。そういえば昔、こうやって背中に背負ってあげたのを覚えている。 中学生の頃だったか、何度も彼女は自分に纏わり付いてきた。 その時は、実家の方に帰省していて、彼女も帰った折に遊びに来ていた。正直、貴にとっては邪魔な人物でしかなく、自分にしがみつくように抱き着く彼女は忌ま忌ましい存在と言っても過言では無かった。 彼女はとにかく引っ付いてきた。引きはがすたびに喘ぎ声のようなものを放ち、その度に彼女は「…良いよ」とうっとりとした表情と声で言ってきた。 もちろん、貴にとっては気持ち悪い「物」以外の何者でもなく、引きはがしては彼女から逃げまわっていた。 そうして、逃げ回っているうちに彼女が追いかけてくることが無くなった。 ようやく、静かになったかと外の噴水の袖部分で本を読んでいたのだが、小一時間も彼女が現れることがなくなり、貴はおかしいと思い始めた。  
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