悪魔の贄

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千代はどちらかと言えば顔見知りのしないほうだ。誰に対しても変わらずその一身を見せる方で、その中でも笑顔の方が断然多い。 例えば道端でふと、会った人物とすぐに仲良くなったりすることも容易に出来る。彼女は自分が良いと思えば、どのような人にでも見せていく。 これは良く言えば、彼女の長所だとも言えるのだが、暗に彼女は相手に対しての疑惑や敵意というものを感じ取る能力が劣っているとも言える。 流石に表だって敵意を向きだしにしている相手なら気付くことは可能だが、少しでも隠そうと為されたのなら、千代は見破るのは無理だ。 しかも、それは必ずしも人間だけではない。 敵意を持った者は人間だけではなく、その他のものである可能性もあるのだ。 本能的に危険な「もの」だとわかっていても、それを回避……それを見破れ無かったのなら何の意味もない。だからこそ、千代は今…痛い目を見ている。 そして、貴も対処が遅れてしまい、そうなってしまったことを悔いた。 時間は四時間前に遡る。 五日間ある秋休みに入ったちょうどその頃、千代は綺麗に整頓された元視聴覚室を使った部室に入り浸っていた。 家でなんとなくではあるのだが飽きを感じ取れたので、そこでくつろぐことにした。 くつろぐとはいっても何もせずにぼうっとしているというわけではない。 現在、千代は受験生の身でその佳境に入り始めている。もうすぐ、センター試験もあり、受ける大学の入試もあと数ヶ月というところだ。 その為、今は勉強というものに一身を注いでいる。 暇ではないし、わざわざ、学校に来る必要はないとも思われるが、家でやるのと学校でやるのでは気合いの入り様がやはり異なってくる。 家にいてしまうのと何かと携帯や漫画、音楽などを使用してしまい、集中など出来るはずが無かった。それに比べると学校はその学校自体が醸し出す雰囲気というものが家とは全く違う。 無理矢理、身を引き締めさすような、そんな縛り糸を出すので集中するにはもってこいであった。 よって、千代は今、姿勢を正しながら机に向かっている。その机は普通の学校の教室にあるような木板の机だ。千代が空き教室からひとつ拝借してきた。 断じて、盗んだのではない。借りたのである。それにあれだけあるのだから誰かが気付くはずもなかろう。  
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