悪魔の贄

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机に向かって、一時間……千代は数学の応用問題をやり終えた。基本は何とか定着している千代に必要なのは、その基本を応用出来るかということと、問題を数多くやることだった。 その一時間で出来たことは数学の空間図形辺りだ。これは頭でその図形を思い浮かべることが重要なので、千代にとっては苦手な問題のひとつだった。 とは言っても、「だった」だ。今は時間こそかかりはするものの何とか答えにたどり着くことは出来る。必死に必至に答えの糸を手繰り寄せて、千代は答えていた。 そのように勉強にもがき苦しみ終えた後、突然部屋のドアが開いた。 「あっ、おはよう」 入ってきたのは貴で相も変わらずの仏頂面だった。だが、心なしかやつれて見えたのは気のせいではなかったらしく、彼の後ろには満面の笑顔を浮かべた真奈がいた。 千代が声をかけても貴は何も答えず、そのままソファへと座り、真奈もその横を追従して、座った。その途端、貴の顔が歪むも何も言わず、持っていた鞄からファイルを取り出して開いた。 不意に千代はどうしてもその中身が気になった。あの黒い開かれたファイルの中身を見てみたいと……。 良いところか悪いところか千代は何事に興味を持ってしまう。 例えば、ファッション雑誌の脇に乗っていたりした健康グッズ、それがどうしても欲しくなったりする。 まぁ、現在バイトをしていない千代にとって、今は経済困難なので買うことは出来ず、見ることだけに留めているのだが、今は違う。 ただ貴の後ろに回って、その中身を少しばかり拝見すればいいだけだ。……いいだけなのだが…。 千代にとってはそれがとても困難な道に見えた。まるで断崖絶壁の壁を上り行くように…。  
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