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平然と暴言を吐き捨てる貴に立ち上がって文句を言ったのはもちろん千代で、苦笑いをしてなるほどと手をついたのは真奈だ。
「じゃあ、なんで夏の時は連れていってくれたのさ?」
「着いて来てくれなんて頼んだ覚えはないが?頼んだのは僕じゃない、父だ。勝手に事実をすりちがえるな」
厳しい視線を千代に送り付ける。予感はしていたので悲鳴を上げることはなかったが、思わず後退りしてしまった。だが、千代も負けじと貴に厳しい視線を送り返した。
それらを鎮めるかのように動いたのは真奈で、「まぁまぁ」と仲介に入った。
「いいじゃない、連れていっても。二人も三人も大して変わらないでしょ?」
「さっき言ったのがわからなかったか?こいつはただの足手まといじゃない、余計なことをして面倒事を次々に増やす足手まといなんだ。こいつの足手まといは三人分に相当する」
と貴はしれっと吐き捨てる。
それに対して胸の中で沸々と怒りが沸き上がってくるのを抑えながら、千代はどさっと鈍い音を立てて、貴の向かい側のソファに座った。
「決めたっ!絶対に着いてく」
千代は勝ち誇るように笑んだ。それに反応して、貴が眉をひそめて千代を見下し気味に顔を歪めた。
「足手まといだと言っているのがわからないのか?」
「そんなの行ってみないとわからないじゃん」
「第一、お前は受験中だろう。着いて来ている場合じゃない」
「だいじょーぶ。きちんと向こうでもやるから」
貴に親指を立てて見せてから千代は真奈を見る。
「ねー。速水さんも着いていっても良いと思うよね?」
「勿論です」
真奈は淡く微笑んで、頷く。その後、千代と真奈は二人で某CMのチワワの如く、目を潤ませて貴を見上げた。
見上げてくる二人には目を合わせないようにして、貴はため息をついた。何故、こうなってしまうのだろうと思索に耽っても思い付くのはひとつしかない。真奈のせいだ。
真奈が千代に話したせいだ。そのせいでしかない。
貴はどうにかしても、千代に行かせたくはなかったが、こうなってしまっては無理だ。
貴がもう少し、こういう状況に慣れていて、どうにかして千代を納得させることが出来れば良かったのだが、生憎貴にそのような饒舌は無い。あるのは毒舌だけだ。
「余計なことはするなよ?一時間したら、行くからな」
貴はそうとだけ言って、部屋を出た。出る瞬間、二人が後ろで笑っていたが貴は気にせずドアを閉めた。
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