430人が本棚に入れています
本棚に追加
それから一時間と三十分が過ぎて、千代達はとある一軒家の前にいる。
ここに来るのは神城駅からの電車だ。電車嫌いの貴にとっては運よく、秋休みなのに電車内での人込みは殆どなかった。
電車内では貴は黙ってファイルを見、真奈はそれに追従して、ファイルを覗き込んでいる。そこで思い出したのだが、千代はファイルを見るのを忘れていた。
そこで覗こうと体を伸ばしてみるが、ファイルは真奈を挟んだ左側にあるので見えるはずもない。
見たいのに見れないという悶々とした気持ちの中、電車は車輪と線路がぶつかりあう音を立てながら、千代達を運んで行った。
着いた場所は神城町から七駅ほど離れた所、東京ではなく、もう千葉の方に入り込み、その駅はコンクリートで作られているながらも小さく、路線が二本しかない。
神城駅も二本しかないが、その駅周辺は発達しており、活気づいている。だがこの駅はそれほど活気づいてはおらず、静まり返っていて、どこか重々しい感じさえもする。
駅の周りは殆どが古い長家と二階建ての木造住宅で空は広々と開いており、駅から見渡しても、マンションなどはなかった。あるのは三階まであるアパートが少しと新築の住宅だけだ。
道は広々と開いていて、千代達三人が堂々と横に並んで歩いても、車二台が悠々と走ることが出来るほどの広さであった。
それでも車は殆ど通らず、そのせいか小さな小学生ほどの少年達がボールを使って遊んでいる。
車が来たら危ないよ、千代は心配になったが、ここは殆ど車が通っていないように見えるから大丈夫だろうと内心で自分に言った。
暫く道を歩き、真奈の案内に従いながら、神社と学校を横切りってからひとつの一軒家に着いた。
そこは周りの黒い古い木造住宅とは反していて、明るい、ベージュを基調とした煉瓦造りの家であった。
貴は何のためらいもなく、屋根がついた玄関の前に立ち、インターホンを押した。
静かな空気の中、家の中で明るい音が鳴るのを千代は耳で聞いた。
それから数秒間、沈黙に取り付かれた後、インターホンから声がした。
「どなたですか?」
最初のコメントを投稿しよう!