悪魔の贄

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「……半年前に引っ越ししてきて、陸稲学校に転校したの」 写真とは違い、彼女は今、二本のおさげを解いていた。窓から差し込む光が彼女の表情を一層明るく見せあげ、その顔に一点の澱みもなかった。強いていえば、少し目の下にくまが出来ているだけで、それ以外は何ともない。 「じゃあ、しんどくなった日のこと、覚えてる?」 その問いに彼女は目を丸くして、苦笑いを浮かべた。 「それって、なんかあるの?……尋問されてるみたい」 「ちょっと……ね。僕は霊に関することを調べてるんだけど、それが昨日の君のけだるさに関係してるんじゃないかと、思ってるんだ」 「……霊?」 訝しげに彼女は上目使いで貴を見た。その目は少し奇異なものを見る目だった。 「私、お母さんから、貴方が岩田製薬の人って聞いたんだけど……」 「それは間違いじゃないよ。でも前日尋ねたのは彼女だ。岩田じゃない。彼女が僕を紹介したんだ」 そう言って彼は真奈の方を見た。 「でも、まぁ……正直な所、霊に関することで君を見たかっただけなんだ。岩田製薬のことを隠れ蓑みたいにしてね」 そこで貴は淡く笑って見せた。それに落ちたのか、彼女は「まぁ、別にいいんですけどね」と言い、頬を赤らめた。 「そうね、私……実はその日のこと、覚えてないんだ。焼却炉でゴミを燃やしたら不意に体が怠くなっちゃって……それから気がついたらいつの間にか家にいたの……」 「焼却炉が学校にあるんだ?」 「そうなの。普通はないのに陸稲学校はあるのよ、煙は吸わないように注意してるけどホントに臭いわよ。勘弁して欲しいわ」 友香は鼻の前で手を振った。 「本当に思い出せないかな?その日のこと……」 「うーん……頑張ってみる」 彼女は腕を組み、目と口を真一文字に閉じた。 「じゃあ、僕はその間、君の母親に話をしてくるから、千代」 「はい?」 千代は立ち上がった貴を見上げて返事する。突然なんだ?と思った。 「少しは役に立て。彼女が思い出したりしたら僕を呼べ。それまで彼女と話でもしてろ」 相変わらずの命令口調で、千代は反論も出来ず頷いた。それを見て、貴は部屋を後にする。 真奈もそれに着いて行き、部屋には千代と友香の二人きりになった。とは言っても、人形が一杯あるせいで、全然寂しさはかんじられないが……。  
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