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千代は背筋が凍り付くのを感じた。背後から感じる空気が恐ろしく重く、冷たい。
「あぁあ、刺さっていれば、怖い目に遭わないで死ねたのにねぇ……」
先ほどの友香の声ではない、低い女の声がした。だが、その声がしたのは友香のいる背後からだった。
「ホントぉに……可哀相な娘ぉ」
千代はバッと振り返った。そこにいるのはやはり友香ただ一人で、彼女は右手をこちらに伸ばしたまま、俯いていた。
「友香……ちゃん?」
「ウフ……ウフフフフ、アハハハハハハハハ!!」
甲高い笑い声を発して彼女は俯いていた頭を今度は天井へと向けた。
そして、その笑いが止むと、ゆっくりと立ち上がり千代の方へと顔を向ける。
思わず千代は口を押さえてしまった。まるで見てはいけないものを見てしまったように……いや、見たくなかったものを見てしまったように。
友香の目は真っ黒な奈落の穴が開いていた。
白目も黒目も何もなく、ただ深淵の色に塗り潰され、感情など何も見えない。
「ウヒヒヒフヒャハハ! どうしたのぉ……顔が真っ青だよ? お姉ちゃん」
彼女は口が引き裂けそうなほど横に引いて笑った。
「どう……して……」
「どぉしてぇ? さぁ、どぉしてでしょぉねぇ。フヒヒ」
「友香ちゃんは……どこ!?」
震える声を一心に正しながら、千代は声をあげた。今にも逃げ出したいくらい足はがくがくと震えている。
「友香ちゃんわぁ、あたぁしぃ。からだだけだけどねぇ」
「どういうこと?」
「このからだわぁ、あたしがもらったのよぉ」
そこでまた彼女は甲高い笑いをした。それは家中に響き渡り、空気を震わす。
「ウフフフフ…………この娘を殺す前にあなたを殺してあげる」
彼女の声は変わった。さっきまでの気の抜けそうな声ではなく、ハッキリとした鋭く冷たい声……。それは静かに千代の喉元にナイフを突き立てていた。
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