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その言葉は千代の心に深く突き刺さった。やるべきことを教えてもらったような気がして、千代は嬉しくなった。
「死ねば……いいのね? 死ねば、私は楽になれるのね?」
「そう。何もかもから解放されるわ。あなたを包む全ての悪夢から。やるときは少し怖いかもしれないけど安心して、すぐに死ねるから」
彼女はそう微笑って、床に転がっていた包丁を千代の手に握らせた。
そして、千代の頭を優しく撫でてあげる。千代は無感情の瞳で微笑み、彼女の目を見返した。
――なんて黒い瞳だろう。吸い込まれてしまいそうだ。普通の人はあんなに黒かっただろうか? いや、彼女だけ特別なのだ。彼女は私の行くべき道を示してくれる、指針だから――。
「首を一気に刺したら、痛みなんて殆どないわ。そのかわり、躊躇わずに一気にやるのよ?」
「……うん」
千代は包丁を強く握り締めた。今まで入らなかった力が手にだけ集中して込めることが出来る。それは、千代が今、死にたがっていることを意味していた。
千代は刃を自分の喉元に向けて、寝そべったまま包丁を高く突き上げた。ここから振り下ろせば、間違いなく千代は死ぬことが出来た。
「さぁ、逝きましょう? 苦しみのない安息の世界へ……」
千代は虚ろな目のまま手に力を込めて、包丁の先を振り下ろした。
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