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「貴が私のことを特別な意味で助けてるんじゃないってことはわかってる。それでもいいの、一緒に……今は一緒にいられるだけで十分だもん」
「……クスッ、クスクスクス……クハハハハハハハ!!」
彼女は高笑いをして、千代に馬乗りになった。
「そんな夢を見てて満足か!? あたしを見ろ! おまえの持つ不安を増幅させ、爆発させろ。そして、もう一度死にたいと思え! おまえは生きている価値なんてないんだよ。誰も必要などしてない! 貴もおまえになんか隣にいてほしくないんだよ。生きてたって何の価値もない腐ったゴミなんだよ、おまえは!!」
彼女は醜く顔を歪めた。顔全面にシワが深く刻まれ、目は鋭く、口は耳まで裂けかけていた。
それを見て、千代は怯えるどころか、やんわりとした優しい表情になった。
「人に必要、不必要なんてものはないの。そこに人がいる限り、人はいるべきなのよ。私は一度死にたいって思ってわかったよ。自殺をした人はこんな気持ちだったんだと」
千代はどこか悲しげだった。
「皆、不安なんだよね。家や学校。部活に勉強。それに友達。それら全部が不安になってのしかかってくるから、人は自分なりに頑張って答えを探すんだね。でも……それでも見つからなかった人達は……不安に耐えられなくなった人達は……」
千代は彼女を真っすぐ見据えた。
「さっきの私みたいになっちゃう」
彼女は何も言わなかったが、どこかその表情は苦しみを持ち合わせていた。
「私はもう自分で死にたいとは思わない。死にたいと思って自分が始めて大切に思えたから。愛おしいものに感じれたから。――だから私は、苦しくても生きる! 自殺なんてしない!」
千代は力強い先程までとは違う芯のある瞳で彼女を見据えた。
「そう……自分で死なないっていうの」
「ええ」
「だったら……私が殺してあげるわ!」
彼女は大きく目を見開くと、千代の足元のナイフを取った。
「ひとつ教えておいてあげる。自殺した子達は、皆楽になってないわ」
彼女はナイフを振りかぶり嘲笑った。
「皆、地獄に行って苦しんでる」
千代は畏怖の念で彼女を睨み付けてから、目をつぶった。
包丁の刃が空を切る音を聞きながら。
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