430人が本棚に入れています
本棚に追加
「その娘から出ろ」
貴は冷たく言い放ち、彼女に近付きすぎない程度に彼女に近寄った。
彼女は笑ってこそはいなかったもののどこか余裕を持った表情をしていた。そして、手を上げて降参とでも言いたいげな仕種をした。
「断るわ。離れたら、あなた私を殺すでしょう?」
貴は答えず睨み据える。
「それにここにいた方が安全だもの。あなたがその式であたしを攻撃したら、この娘の体を傷つけてしまう。それは禁じられているもんね」
「僕がそんな決まり事を守ると思うか?」
貴は冷淡にそう言い放ち、彼女の喉元に光矢を近づけた。もう触れるか触れないかの瀬戸際で、触れれば彼女の体を傷つけてしまうところだった。
「…………できないわね。あなたはいつも千代ちゃんを助けてあげるカッコイイヒーローなんでしょう? だからこの娘も助けたいはずよね?」
「……仕方がない」
「仕方がないの? 仕方がないでこの娘は死んじゃうの? ああ、神様、何の罪もないこの娘を天国に連れていきたまえ」
彼女はあがきとも言っていいほど見苦しい表情で天井に向けて大きく手を広げた。
彼女は貴に同情をさせようとしていた。この体に攻撃さえさせなければ自分は幾らでもこの場から逃げる方法があったからだ。
だが、攻撃されたら自分は死んでしまう。この世から消え去り、あの世へと強制的に落とされてしまう。それだけは嫌だ。
だから彼女は幾つもの同情を誘う言葉を並べた。
最初のコメントを投稿しよう!